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Into the unknown



知らない、と言う事は楽しい。
それはこれから未知の物事を体験したり、新しい事を知ったりできるからだ。


この仕事をしていると、全国各地津々浦々へと演奏旅行で回る事が多々ある(我々は単純に “旅” と呼称している)。

旅に出る場合、オーケストラの事務局から “推奨プラン” 的な物が示され、それに近い感じで、それぞれが自分達で宿や移動手段を確保する事が多い。
もちろん望めば、全て事務局に手配してもらう事が可能だ。

自分で手配する場合、さっさと帰ってみたりちょっと観光してみたり、間に別の仕事を入れてみたりと、それぞれが勝手気儘に過ごしている。


ウチのコントラバスチームはかなり旅を楽しむ派だ。
各地でその土地の美味しいものを食べ、美しい景色を眺め、好い季節であったり、面白そうな場所が近くにあれば皆で足を伸ばしてみたりする。
気合いを入れて伸ばしすぎて、四国八十八ヶ所のお遍路を全て巡ったりしたこともあった。


数ヶ月前だったろうか。首席コントラバス奏者からこんな話があった。
「12月のここからここまで日程押さえといて!」
「旅のトコですね。 何か面白いコト思いつきました?」
「それは秘密。とりあえず日程だけ押さえといて。」
「イエッサー。」


そして今
旅が始まった今
まさかの未だに秘密なのである。
「全部押さえてあるから、何も心配せず身一つで来い。」
の一点張りなのである。


さすがにオケから連絡が来ているので、いつどこで公演があるのかは知っている。
しかしそれ以外の、いつどこからどこまで何で移動して、どこに宿泊して等の演奏に関わる事以外の情報が、一切僕に与えられていない。

かろうじて初日の集合時間と場所、最終日の解散場所と到着時刻が告げられたのみである。

移動のみで演奏しない日だってあるのだ。
行こうと思えば、割と広範囲にどこへでも行けてしまうのだ。
「パスポートは要りますか?」
こう聞いてしまった僕を責める事は誰にも出来まい。
幸いにも返事は
「要らん。」
でした。日本国内には収まるらしい。



今、流れてゆく車窓を眺めながら思う。
この後名古屋に到着して、今宵はそのまま名古屋で本番がある。
そこまでは分かっているのだ。

しかしその後、僕は何処へ連れ去られるのか。
この先いくつかの場所を巡る公演の間に、何をさせられるのか。
いくら貧相な脳みそを絞りに絞って想像してみても、きっとこの人達は、その貧弱な想像の斜め上から僕を攻め立てるプランを用意している事であろう。
もはや考えるだけ無駄だ。
あるがままに受け入れるしかあるまい。
明日の今頃、自分が一体何処にいるのかも分からないのだ。
この旅が終わるまで、ここから先の全てが未体験ゾーンだ。

なんてこった。
悔しいがちょっとワクワクしてしまっている。

知らない、と言う事は楽しい。