ボウイングのセオリー1


弓の角度




擦弦楽器の奏法の右手の動作、ボウイングにおいて最初の一歩。
それは、


弓の角度を弦と垂直にし、真っ直ぐ動かす


という事です。
これが楽器を構えて弓を持った後、最初の最初に習得しなければならない事。そしてその後演奏している時には常に実践されなければならない事であり、擦弦楽器の演奏における、『いろは』の『い』、はじめの一歩です。


弓の元にセットして弾き始め



中程を通過して



弓先に至るまで。
弓のどの部分で弾いていても、

弓は弦に対して垂直に、真っ直ぐ動かさなければなりません。


そして弓が弦に対して垂直に真っ直ぐ動かされていれば、その1音を弾いている間は上の3つの写真のように

弓は弦上で上下にブレる事なく、1箇所を弾くことになります。



↑この写真のように、手元が上がったり



↑この写真のように、逆に手元が下がったりしないようにしましょう。



何故弓を真っ直ぐ動かさなければならないか




ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスのような擦弦楽器と呼ばれる弦楽器がarco(アルコ、弓で音を出す奏法)で音出す場合、大雑把に言えば弓で弦を擦って振動させ、その振動が駒からボディに伝わって増幅されてお客様方に届く音となります。


そしてその振動は
ダウンボウ(↑写真の赤矢印の方向に弓が動く)で弾かれる場合、弦は緑の矢印のように楕円を描いて振動します(大雑把に言えばです。細かく言えばもうちょい微妙に複雑に振動します)


前から見ると↑こう振動しているのですが、ぱっと正面から見ると横に振動しているだけに見えると思います。

是非弾いて振動している弦をよーく観察してみて下さい!
この弦が振動している幅のことを
振幅と言います。


そしてものすごくざっくり言えば、
この振幅が大きいほど、音は大きくなります。

要は大きな音を出したければこの振幅が大きく揺れるようにすれば良い訳です。



さて弦を揺らす事について理解するためにひとつ実験をしてみましょう。
必要なものは輪ゴム一本です。
↑写真の青いのが輪ゴムです。
ぴっと張ってみて下さい。
写真を撮りやすくするために上下に棒を設置していますが(棒と言う名の転がってたエンドピン)、自分でやる時はどっちかの手の親指と人差し指にでも引っ掛ければ良いと思います。


この張った輪ゴムをはじいて振動させてやります。
はじいた弦の振動とはじきやすさをよーく観察してみて下さいね。
↑まずは弦(輪ゴム)を弦に対して垂直に引っ張ってはじいてみて下さい。



↑次に弦に対して斜め下に引いてはじいてみます。



↑お次は弦に対して斜め上に引いてはじいてみます。



どうでしたか?
弦に対して垂直に引っ張ってはじいた時が最もはじきやすく、振幅も大きくなったのではないでしょうか。

振幅云々を抜きにしても、斜めにはじいた時は単純にはじきづらかったと思います。


このように、ひも状のものが引っ張られて弦になっているものを振動させる時には、弦に対して垂直にエネルギーを加える事が最も効率が良いです。

楽に良い音が出せるって事ですね。


弓で弦を擦るという動作は、弓の毛と松ヤニによって生じる摩擦によって、弦を超高速かつ連続してはじき続ける動作です。
(弓の毛全体にスゲー小さい指がみっしりついていて、弓を動かしている間それらの小さい指が高速ピチカートをしているようなイメージです)

故に、弓を動かす方向(=弦をはじく方向)は弦に対して垂直に真っ直ぐ動かされた時に最良の効果が得られます。



同じように弦の振動を利用する道具に弓がありますが、弓道にしろアーチェリーにしろ、弓に張ってある弦に対して垂直に矢をつがえて放つのをなんとなく見たことがありませんか?
弦に対して斜めに矢をつがえるととんでもない方向に矢がぶっ飛んで行ってしまう事になります。


そんな訳で。
良い音が出したければ、長い音だろうが短い音だろうが、音が大きくても小さくても、弓は弦に対して垂直に真っ直ぐ横に弦上の1箇所で動かすのが基本です。




例外として




弦に対して弓を垂直に真っ直ぐ動かすのが擦弦楽器の基本ではあるのですが、ちょっと例外を。


コントラバスはご存知の通りでっかいです。
そしてそのでっかいコントラバスのG線は身体から最も遠い位置にある弦なので、身体がすごく小さかったり、腕が短めだとちょっと真っ直ぐ弾くのが厳しい子もいます。
中1とかだとまだまだ成長途中もいいところですし。
大体は構え方や何やらを調整すれば大丈夫なのですが、それでもどうにもならない場合。

僕はその場合に限りG線はちょっと斜め(弓先が下がる)に弾いても良いよ、と指導する事があります。
しかし、そのように例外的にちょっと斜めに弾いたとしても


弾く場所は1箇所を弾くように気を付けてもらいます。


1つの音を伸ばしたりしている時に、意図せず弓の位置が上下に滑ってはいかん、という事です。
シャーシャーした雑音が増えてしまう事になります。




プロの人が弓を斜めにして弾いてるのを見た事があるんだけど?




あると思います!
理由は大きく分けて2つ



その1  弦の向き

弓は弦に対して垂直なので、楽器の構え方をちょっと傾けて弾いている場合は、真正面から見ると地面に対しては弓も傾いているように見えます。

そして弦自体も楽器に対してそれぞれに少し角度がついているので(特に両端の2つの弦)、これも真正面から見ると少しだけ傾いて見えるかもしれません。

しかし弦に対しては垂直に弾いている事になります。

自分の構え方でどの角度で動かせば良いのかを色々観察しながら試してみてください。



その2  実際斜めに弾いてる

こちらは本当に斜めに弾いている場合。
それは理由がある場合にそういった弾き方をしています。
僕も必要があれば生徒にも「ここの部分だけはこういう風に斜めに使ってね」と教える事があります。

ただし、前提としてきちんと真っ直ぐに弓を使える事が条件です。
基礎を覚えた後の応用、上級編ですね。

例えばそこら辺をふらふらしているプロのコントラバス奏者の方を捕獲して
「ちょっと弓を真っ直ぐきっちりボウイングしてみて下さい」
と言ってみたとしたら、100%完璧に真っ直ぐ弾けます。断言できますが、出来ない人はいません。



そしてそれはコントラバス以外の弦楽器、例えばチェロでも
同様です。


なので、まずは!
弓を真っ直ぐ使うということを覚えておいて下さい。