コントラバスとは





コントラバス、ダブルベース、ウッドベース、弦バス…使われるジャンルや国によって様々な名前で呼ばれるコントラバスと言う楽器について、歴史的な事も含めてザックリ解説していきます。

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オーケストラ、ジャズ、ポップス、吹奏楽や各地で発展したその土地の音楽等、様々なジャンルで使用されているコントラバスは、 “弦楽器” と呼ばれる、弦を振動させて音を出す楽器の仲間であり、更に弦楽器の中でも  “擦弦楽器” と呼ばれる、弓で弦をこすって音を出す楽器の仲間です。

上の写真の左から順にヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスです。これらは全て擦弦楽器の仲間になります。
楽器が大きくなるほど担当する音域が低くなります。


コントラバスは上記5種類の楽器の中でも最も大きく、最も低い音が出ます。
どんなジャンルで使われたとしても、大抵は1番下で全体を支えて音楽を運ぶベース音域を担当する事がほとんどです。


そして、オーケストラで使われているヴァイオリン、ヴィオラ、チェロと一緒に “ヴァイオリン属” として扱われる事が多いのですが、歴史的に見ると厳密に言えばヴァイオリン属ではありません


ヴァイオリン属の楽器達と良く似た “ヴィオラ・ダ・ガンバ属” と言う楽器の仲間があります。

ヴィオラ・ダ・ガンバ (viola da gamba) はイタリア語です。
英語ではヴァイオル (viol) 、フランス語ではヴィオール (viole) とも呼ばれていた様です。


“ヴィオラ” は当時弓で弾く弦楽器の事を広く意味していました。
“ガンバ” は脚と言う意味です。
“ヴィオラ・ダ・ガンバ” は脚の擦弦楽器と言う意味になります。
脚で支える姿勢を取ることから、この名がついた様です。

対してヴァイオリンの様に肩や腕で支えて演奏する擦弦楽器は “ヴィオラ・ダ・ブラッチョ (viola da braccio: 腕の擦弦楽器) ” と呼ばれていました。


基本的には6本もしくは7本の弦を持ち(ヴァイオリン属の弦は4本)、ボディはなで肩でギターのようにフレットがあり、チェロやコントラバスのように楽器を立てた状態で、膝に挟んだり地面に立てたりして演奏されます。
現在でも古楽と呼ばれるジャンルで使用されているのを見る事が出来ます。


このヴィオラ・ダ・ガンバ属の低音を担当していた “ヴィオローネ” と言う楽器があります。 (violone: 大きなヴィオラと言う意味)

ヴィオローネがヴァイオリン属と一緒に演奏をするようになり、ヴァイオリン属の良いところを取り入れつつ進化した結果、今あるコントラバスの形になったであろうと言われています。

そのためコントラバスはヴィオラ・ダ・ガンバ属とヴァイオリン属の双方の特徴が共生する楽器となりました





その特徴の例を挙げていきましょう。
まずはです。


コントラバスの弓には

ドイツ式ジャーマンスタイル。↑写真上)
フランス式フレンチスタイル。↑写真下)

の2種類が存在します。


元々はヴィオラ・ダ・ガンバ属の流れを汲んで、弓を下から支えて持つドイツ式に近い形で演奏されていました。

↑ドイツ式の弓の持ち方。上の方のヴィオラ・ダ・ガンバを演奏している絵の右手と見比べてみて下さい。


その後1800年代に入ってから、ジョバンニ・ボッテジーニ(1821-1889)と言うコントラバス奏者兼指揮者(↑上の写真の方です)が

「コントラバスもヴァイオリン属と同じように弾いたら良いんじゃないか?」
と始めた(と言われている)のがフランス式です。


↑ヴァイオリンの弓の持ち方。



↑フランス式の弓の持ち方。ヴァイオリン属のようにオーバーハンドで弓を持ちます。


現在はこれらのドイツ式とフランス式の双方が使われており、国によって大まかな住み分けはありますが、奏者の好みでどちらかが選ばれています。

日本ではドイツ式の人がほとんどでしたが、ここ10年くらいでフランス式の方が少しずつ増えてきた感じがします。


ボッテジーニはコントラバスの為の曲もたくさん書いており、現在でもコントラバス奏者の重要なレパートリーとなっています。
色んな人の演奏がありますので、是非調べて聴いてみて下さい。






特徴の例2つ目はボディの形です。


ヴァイオリン属の裏板は上の写真のように丸みを帯びてカーブしていますが、ヴィオラ・ダ・ガンバ属の裏板は平らな形状をしています。


そうするとコントラバスではどうなるかと言いますと。

上の写真の様に、ヴィオラ・ダ・ガンバ属の特徴を受け継いだ平らなもの(写真左。フラットバックと呼ばれています)と、ヴァイオリン属の特徴を取り入れたカーブしているもの(写真右。ラウンドバックと呼ばれています)の両方が存在します


ボディそのものの形も、ヴァイオリン属の様にくびれの先が尖っているもの(写真左)と、ヴィオラ・ダ・ガンバ属の様にくびれの先が尖っていないもの(写真右)があります。

これらはそのまま「ヴァイオリンシェイプ」「ガンバシェイプ」などと呼ばれています。


しかしそれだけに収まらないのがコントラバスの面白いところで、他にも瓢箪みたいな形やら色々な形の楽器も存在していたりします。

こんなのもあったりします。





特徴その3はチューニング(調弦)です。



上記はヴァイオリンの調弦です。
開放弦で上から

E(ミ)-A(ラ)-D(レ)-G(ソ)

と、隣同士の弦が5度の音程になるように調弦されます
ヴァイオリン属の仲間であるヴィオラとチェロは、上から

A(ラ)-D(レ)-G(ソ)-C(ド)

と、ヴァイオリンと音は異なりますが、5度で調弦されます。


ところがコントラバスだけは上記のように、上から

G(ソ)-D(レ)-A(ラ)-E(ミ)

と、隣同士の弦が4度になるように調弦されます

これもヴィオラ・ダ・ガンバ属が基本的には4度で調弦されていた事に由来するようです。

コントラバスは歴史の中では弦の数すら3本だったりしたこともあり(上で載せたボッテジーニさんの写真をよーく見てみて下さい。弦が3本しかないですね!)、進化の過程で弦の数や調弦も様々に変わっていったようです。


現在では上記の調弦(オーケストラチューニングと呼ばれます)の四弦のコントラバスに、更に下のCもしくはHの弦を追加した五弦のコントラバス。


↑四弦コントラバス(左)と五弦コントラバス(右)


そしてソロの曲を演奏する際に使われる、上から

A(ラ)-E(ミ)-H(シ)-Fis(ファシャープ)

に調弦する、ソロチューニングと呼ばれる、オーケストラチューニングより1音高い調弦が主に使用されています。

ソロチューニングを使用する際には、ソロチューニング専用の弦を張ります。
なので、中高生の皆さんは今部活で弾いている楽器を無理やり高くチューニングしてみる!なんて事は絶対にしないで下さい。




紆余曲折を経て進化してきたコントラバスですが、1900年代に入ると、ほぼ今見られるような “コントラバス” になってきました。


それまでの弦は羊の腸を撚り合わせた “ガット弦” が主に使われていましたが、演奏環境の変化(コンサートホールの広大化等)に伴い音量の増大や演奏のし易さを求められ、徐々に金属製のが一般化していきます。


弦が金属製になると、弦の引っ張る力(張力)も強くなりますので、それに耐えられる様に楽器自体も変化しなければなりません。

例えば今のコントラバスと200年前に作られたコントラバスではネックの角度なんかが結構違います。
例えば上の方で説明したように、ボッテジーニの頃のコントラバスは弦が3本のものが多かったようです。


現在作られているコントラバスは最初から現在使われている進化した形で作られていますが、それ以前からあるような古い楽器達は、変化に対応した改造が施されているものが多く見られます。


古い楽器達も時代に合わせてどんどん進化してきたと言う事です。
そのおかげで、作られてから数百年経ったコントラバス達も(以前はヴィオローネとか違う名前で呼ばれていたかもしれませんが)、現役で我々に演奏されています。

余談ですが、上の方の写真のボッテジーニの使用していた楽器も3弦から4弦に改造され、実は今は日本にあって現役で大切に演奏されています。歴史の生き証人ですね。




ジャズやブルースなども初めの頃は全てコントラバスで演奏されていましたが、音楽のジャンルの多様化と発展に伴って、音量の増加や取り回しの楽さを求められ、1951年にFender社から世界で最初のエレキベースであるPrecisionBass(Precisionは正確なと言う意味です。コントラバスにはないフレットが付いていて、正確な音程で弾けるベースの意味ですね)が発売されました。

↑友人ベーシストの所有エレキベース達。
真ん中のベースが62年製Precision Bass。


その後コントラバス自体に装着するピックアップEUB(Electric Uplight Bassの略)なども開発され、現在ではかなり多様化しています。

↑コントラバスにピックアップを装着したもの。お世話になっているベーシスト氏所有。