ボウイングのセオリー4


音を決める3つの要素

〜弓に乗せる重さ〜




音を決める3つの要素の3つめ、弓に乗せる重さについて説明します。
このルールの基本は至ってシンプルです。


弓に乗せる重さが増えるほど音量が増し
弓に乗せる重さが減るほど音量も減ります。


実にシンプル。
実際に僕がレッスンする際にはありとあらゆる手段を駆使して少しずつ理解を深めてもらう部分なのですが、単純すぎるが故に勘違いも起きやすく、文章や写真で説明するのが非常に難しい部分でもあります。
 
そして身体の使い方の感覚の話なので、プロの人達でもそれぞれかなり異なる部分でもあると思います。
故に僕がレッスンする時に説明する大体の概要を載せておこうと思います。
参考程度に読み流して下さいませ。
 
 

弓に乗せる重さとは




そもそも弓に乗せる重さって何だ?
というお話。


まずコントラバスの弓自体の重さがあります。
大体130gとか140g前後でしょうか。かなり個体差があります。


そしてそれに加えて、弓がくっついている右腕の重さがあります。

腕の重さは大体全体重の6%ほどらしいので、例えば体重50kgの標準体型の人であれば、右腕一本で3kg前後になります。
牛乳パック3つ分。1.5Lのペットボトル2つ分。3kgの鉄アレイとか持った事ありますか?かなり重いですよ!

例えばその鉄アレイを弓に引っ掛けて弦上で真っ直ぐ動かしてみたら、えげつなくデカイ音がします(例えです。危ないのでやらないで下さいね)。
その重さを弓に乗せて動かすことで大きな振幅が得られます。


もしあなたの目の前でぐうぐう寝てる人を発見したらチャンスです。試しにそっと腕を持ち上げてみて下さい。腕がすごく重い事を体感できるでしょう。

そして「寝てる人」ってのがポイントです。
完全に爆睡中の人は大体ぐんにゃりと全身を脱力した状態で横たわっています。


この弦楽器を弾いていれば耳にした事のあるであろう「脱力」がポイント。しかし曲者でもある。



何故脱力する必要があるか




コントラバスに限らず弦楽器なら誰でも、
「腕を脱力して弓に乗せてボウイングをする」
的な事をレッスンで言われたり、何かで読んだりした事があるのではないでしょうか。

この「脱力」が重要ポイントであり曲者ポイント。
今回は大きく2つの部分からアプローチしたいと思います。



腕の重さを利用する為




先程「寝てる人の腕は重い」と書きました。
じゃあ起きてる人の腕は?


試しに近くにいる友達に
「ちょいとキミの腕を持ち上げさせてもらえないか」
と頼んでみて下さい。


快く友人の同意を得られて持ち上げてみた時、
ほとんどの場合において持ち上げた腕は軽く感じると思います(持ち上げられた人の身体操作能力が非常に高い場合を除く)。

上で書いた3kgの重りなんかを横に用意してみて、交互に持って比べてみると分かりやすいかもしれません。


これは何故かと言うと、
「今からあなたの腕を持ち上げます」
と言われて腕を引っ張り上げられると、大概の人は反射的にそれを手伝う方向、上向きに力を入れて自分から腕を持ち上げてしまうからです。
天邪鬼なヤツだと逆に抵抗することもあるかもしれませんが。笑



これが腕の重さを利用する為の脱力の反対の力


腕を持ち上げる力


です。
しかし考えてみて欲しいのですが、実際に我々が生活している中で腕を使って何かをしようとする時。
本を読む、スマホいじる、鼻をかむ(僕花粉症です)、何かを取る、等ほとんどの動作において、腕を持ち上げています



持ち上げないってのは、何にもしないでぼーっと立っていて腕がぷらんとぶら下がっている場合や、何かに腕を置いている時くらいで、基本的には何かをしようと思った時に腕を持ち上げるのはセットになっています。


この腕を持ち上げる力がない状態が、脱力した状態です。


そして腕を持ち上げる力が全くない状態で弾くと、弓に乗る重さが全開になります。
ただし完全に脱力しっぱなしだとずっとf(フォルテ)になってしまうので、この力も演奏中は常にコントロールする必要があります。


一言で「持ち上げる力」と言っても首、背中、肩、腕、手首、手、指、あらゆる箇所にぐるっと色々な筋肉がついていて連動しています。
普段の生活から自分の動作をよく観察してみると良いと思います。





弦の振動を止めない為




上向きの力を掛けない脱力の次は
下向きの力を掛けない脱力のお話。


下向きの力とは何か。
弓でコントラバスを擦っている時に、弦を弓でぎゅうぎゅう押してしまう力のことです。

中高吹奏楽部の子達なんかはこれをやってしまっている事が多いです。
多少なら辛うじて許容範囲内ですが、一定量超えるとアカンことになります。


何がいけないかと言いますと、
弓の角度の項で弦の振動のお話を書きました。
音を出す為には弦を振動させる必要があるのですが、弦を弓でぎゅうぎゅう押しつけて弾いていると、

振動した瞬間から、押し付ける弓の圧力でその振動を止めてしまうことになります。
 

 
ちょいと打楽器を叩かせてもらうと分かりやすいのですが、例えば大太鼓なんかを叩く時、ビーターで皮を叩き、すぐにビーターは皮の面から離されます。

そうすると「ドーンンンンンンンン」と余韻のある大きい音がしますが、ビーターが面に当たった瞬間にそのまま太鼓の皮の上でグッとビーターを押し付けて止まってみて下さい。
 
そうすると音が鳴った瞬間に皮の振動が抑え込まれてしまい「モ゛ッ!」と何とも言えない音になります。

弦を弓でぎゅうぎゅう押し付けて弾いている状態では、この「モ゛ッ」という音が連続していることになります。


余談ですが、打楽器も身体を使い脱力と重力を利用し音を出すことにかけてかなり弦楽器と共通点が多いので、打楽器奏者の方々とこういう話をすると盛り上がります。


閑話休題。
コントラバスの場合振動している弦はほとんどが金属製なので、押さえ込んでしまうと「ギーギー」した音になってしまい、音の響き広がりもなくホールの様な広い空間で遠くまで音が届かなくなってしまいます。


せっかく振動させた弦を止めてしまわない為に、下向きに弓を押し付けない脱力が必要になります。

そしてその為には弓を握りしめたりせずに優しく持ってあげることも重要です。


僕は昔師匠に
「弓をお前の彼女の手だと思って持て。好きだからってずっと力任せに握りしめてたら痛いって言われるだろ。相手の存在と体温を感じるくらいで、優しくそっと持て。」
と言われてました。笑


ついでに言えば、
弓をガッと握りしめ、ぎゅうぎゅうと弦に押し付け続けて弾いている子は右手が腱鞘炎とかになっちゃう可能性があります。
気をつけて下さい!



重さを乗せて弾く




弓に重さを乗せて良い音で弾く為に必要な脱力についてざっと書きましたが、最後にひとつ面白いお話を。



僕の大学の某大先輩(某オーケストラのコントラバス奏者をされています)が学生だった頃、僕の師匠のそのまた師匠にレッスンを受けていたとある日のお話。


大先生に「右手の力を脱力してボウイングをしろ」と言われた大先輩。
この大先輩は非常にパンチのある方で、やれと言われりゃ常に120%の全力で立ち向かいます。そういう漢。

よし力を抜けば良いんだな!と
全身全霊で右腕を脱力する事を魂の奥底まで決意しいざボウイングに臨みます。
そうすると


ぼとっ


ぼとっ


ぼとっ



嗚呼何という事でしょう。

何度ボウイングしようとしても弓が手からこぼれ落ちてしまうではありませんか!
何度かトライしては弓が落ちるを繰り返し、困った大先輩は大先生に質問します。


大先輩「先生!脱力すると弓が落ちてしまいボウイングが出来ません!」

大先生「アンタねえ!加減てモノを知らないのかい!!!!!!!!!!!!」



とまあ、これは超絶極端な方のぶっ飛んで極端な例ですが。笑


一言で「脱力する」と言っても、全部を全部抜けば良い訳ではありません。
上向きと下向きの力を全て脱力したとしても、少なくとも弓が落ちないように保ち(笑)、左右に弓を動かさなければ音は出ません。


必要な時、必要な箇所に必要なだけ力を使い、その他は抜く。

これが弓に良い重さを乗せてボウイングをする為に大切なことだと思います。